
シューマニアーナ5 伊藤恵
シューマンの音楽ですが聴いていると引き込まれるというか吸引力があるというか入っていく部分があります。この吸引力、交響曲やピアノ協奏曲はまだよいのですが、心のひだに入ってくるようなピアノの小品はかなり凄い。今回の伊藤恵さんの「シューマニアーナ」の第5弾はそんな2曲のピアノの小品を含めた構成。なかなか聴き応えがありそうです。(1993年録音)
<収録曲>
子供の情景 Op.15
幻想曲 Op.17
森の情景 Op.82
今回の3曲ですが、シューマンのピアノ曲でポピュラーな部類に入る「子供の情景」「幻想曲」と後半に書かれた「森の情景」となっております。
まずは「子供の情景」。伊藤恵のピアノはいつもながら響きもがっちりしておりオーソドックスな解釈。この(大人のための)小品を一曲一曲真摯に奏でていきます。きらめく感性などを求めると物足りなさがあるかもしれませんが完成度は高い。第11曲目などに見られる徹底的に確実にフレージングしているのを聴くとある種の自己主張みたいに感じるのは考えすぎでしょうか。
次に「幻想曲」。この曲はインスピレーションにとんだ数々の名演奏がありましてそのイメージで聞くと地味ととられそうな演奏であります。しかし曲の構成をしっかりと聞かせるという全集というコンセプトからは逸脱しておらずバランスのよい演奏とも言えると思います。
そして「森の情景」。シューマンが創作意欲旺盛だった40歳前に書かれた曲。ラウベ「狩りの日記」に触発されて1週間程度で書き上げられた9曲からなる小品集。
昔ドイツを旅した時に日本とは違う深い森に触れて感銘を覚えた事があります。その明るさと深い闇が共存しているかのような森に多くの作家や作曲家がインスピレーションを受けたのも納得でありました。そんなドイツの森のイメージを「森の情景」を聴いて久々に思い出しました。
さて曲ですが、最初と最後にある「 1.入口」「9.別れ」前者は明るい溌剌とした曲調で今から森に入っていく様子を、後者は堂々としながらゆるやかに静かに幕を閉じる曲調で今歩いてきた森を振り返って別れを告げ、そして段々遠ざかっていく様子を連想させる曲。最初と最後にしっかりとした感じの曲で全体を締めている効果もありそう。
次は「2.待ち伏せる狩人」「8.狩の歌」と狩りに関する曲。日本の森ではピンとこない狩もドイツの森にはピッタリ。やや快活なフレーズを基に元気な曲調で狩の光景を巧く描写しています。(ピアノ曲なのに小編成のアンサンブルを聴いているかのような多彩な響きがするのもいかにもシューマンらしい)
「3.孤独な花」は抒情的なポツポツした語り調の曲。花とはいっても寂しさやはかなさを感じさせ一抹の悲しさがあります。「4.呪われた場所」は不安定で落ち着きがない曲で不気味な雰囲気も。こういう曲を聴くとシューマン自身の精神的な傷を感じます。
「5.親しげな風景」「6.宿」は前の2曲から一転して明るく楽しげな曲調になります。前者は明るい森の風景を、後者は旅人が楽しんでいる様子か連想され明るい気分になってきます。
「7.予言の鳥」は予言の鳥が鳴いているかのようなフレーズが羽を広げて飛んでいるような印象がある曲調。霧のような不思議な雰囲気がある曲で様式に捉われない小品集だからこそ生まれた素晴らしい小品。
実は「森の情景」全曲を通して初めて聴いたのですが予想以上に素晴らしい小品集で大変感動いたしました。有名な「子供の情景」よりも個人的にはこちらの方がより好みであります。すっかり吸い込まれてしまい相当繰り返して聴きました。
今回のシューマニアーナ(ほとんど森の情景の話題でしたが)いつもながら楽しめました。伊藤恵さんのしっかりとしたピアノ余計なものがない分曲に集中できるためいいですね。
さて次はどんな世界を紡いでくれるのか今から楽しみであります。
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