ベートーヴェンの生涯 青木やよひ 平凡社新書
先日出張先で見かけたのが「ベートーヴェンの生涯 青木やよひ」という著書。青木やよひさんは知る人ぞ知る日本におけるベートーヴェン研究の第一人者。これは読まねばと手に取った次第。
読みやすさ、長年の研究に裏打ちされた説得力、著者のベートーヴェンに対する熱い思いがひしひしと伝わってくる良書。(とにかく読み始めると止まらない。)
従来一般的に語られるベートーヴェンの姿とは違ったベートーヴェン像が記されている点も注目のポイント。要は従来のベートーヴェン像の形成には、(唯一ではない)秘書であったシンドラーの存在と、有名な(読み物としてはおもしろいが)ロマン・ローランの「ベートーヴェンの生涯」という著書が加わったのが大きかった。
著者である青木やよひさんは、そんな従来のベートーヴェン像の間違いを丹念に調べた上で自分なりの意見を加えて「新しいベートーヴェン像」を作り上げています。
さらに仲間・家族・女性関係などについても当時の時代背景も織り交ぜて語られており、ベートーヴェンが生活していた当時のボン、ウィーンの風景もよく分かりまして非常に奥行きのある内容になっており「人間ベートーヴェン」を語っているのは評価したい点。
特に普通「ベートーヴェンの伝記」では、生誕からハイリゲンシュタット遺書までは駆け足で記されているものが多いのですが、今回の伝記では全体の半分を占めており、アルコール依存症の父との関係に終始する事が多いボン時代には50ページ程度さかれており、(年齢詐称させられていた)少年ベートーヴェンの原点が詳しく語られている部分は非常に興味深かった。
とにかく「揺りかごから墓場まで」といいましょうか。文字通りベートーヴェンの人生全てを追体験出来、時系列的に抜けがほぼないのが凄い。
現在では忘れ去られているような作品も意味ありげに登場しており、読んでいると実際どんな曲か聴いてみたくなるのもこの著書の特長。さらに個人的によい伝記の条件である、最後に記されている「注」がまたおもしろいのもうれしい。
学者だと文章がおもしろくない場合が多く、作家だと内容に思い入れが強く脚色が強すぎる場合が多いのですが、青木やよひさんの熱意がありながら少し客観的な距離感も感じる書き方で、研究成果の披露ではなく読み手に分かりやすく伝えようという意思を強く感じ、非常に好感がもてました。これだけ読後に満足だった伝記は珍しい。
「人間ベートーヴェン」にふれる事が出来るこの著書。個人的に現在手に入る「ベートーヴェン」の伝記ではよく書けていると思います。クラシック音楽ファンならば一度手に取ってみるとよいのではないでしょうか。
本書ですが、昨年末お亡くなりになった青木やよひさんの遺著であります。ご冥福をお祈りすると共に、これだけ素晴らしい著書を残してくださった事に感謝の意を表したいと思います。
びっくり・・・。
ベートーヴェンの「不滅の恋人」に関する検証は、
青木さんの説が一番説得力があると、かねてから思っています。
この本も読まなくては!
コメントありがとうございます。
「不滅の恋人」に対する解釈は様々(自分はどの説とも言えないのですが)。でもベートーヴェン自身愛とか恋とか下世話な部分もあった事は確か、思った以上に身近で人間的な存在だったよう。
そんな人間ベートーヴェンを語らせたら屈指の存在による新しい著書が読めないかと思うと残念でなりませんね。
私も、つい先日、青木やよひさんの『ベートーヴェンの生涯』を読んだばかりです。内容的に、今まで抱いていたベートーヴェン像をやや修正するところがあったこともたくさんありますが、加えて、著者が病床で執筆した文章に感銘を受けました。
コメントありがとうございます。
今回の書籍、自分にとっても従来のベートーヴェン像を修正する一冊になった良書でした。
narkejp殿の「電網郊外散歩道」を拝見させていただきました。分析力豊かな記事の数々勉強になりました。このような緻密な文章、大雑把なA型人間の自分には無理であります。(笑)
「ベートーヴェンの生涯」再読されているそうですが、narkejp殿が発見した件の数々を知ると本の再読を滅多にしない私も再読しようかと検討中であります。
また勝手にリンクを貼らせてもらいましたがご不満でしたらご連絡ください
返事が遅延してしまい申し訳ありませんでした。